開運ブームで消えた印鑑のアタリ
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印鑑の側面にある「アタリ」(または「サグリ」「丹」とも呼ばれる)は、印鑑を押す際に上下の向きを素早く判断するための目印です。特に円形の印鑑では、印面を見なくても向きがわかるため、スムーズに捺印できるという利便性があります。
しかし、一時期の開運ブームによって、このアタリが付いていない印鑑が増えました。その主な理由は以下の通りです。
印鑑は「自分の分身」という考え方
開運印鑑の世界では、印鑑は持ち主の分身であり、その身体を傷つけることは縁起が悪いとされました。
アタリを付けることは、印鑑の側面に加工を施すことになるため、「分身を傷つける」行為と見なされ、避けられるようになったのです。特に、実印や銀行印など、重要な契約や金銭に関わる印鑑では、この考え方が強く推奨されました。
「慎重な捺印」を促す意味合い
特に実印や銀行印など、法的に重要な効力を持つ印鑑を捺印する際は、その内容を十分に確認し、慎重に行うべきだとされています。アタリがないことで、捺印する前に一度、印面の上下を視覚的に確認する手間が発生します。この「一呼吸置く」時間が、契約内容の再確認や、意思決定の再考を促す役割を果たすと考えられました。
安易にポンポンと捺印するのではなく、熟考の上で押すというメッセージが込められていたのです。
このように、開運ブームの中で「印鑑を傷つけない」「慎重に捺印する」という縁起や思想が重視され、アタリのない印鑑が「開運印鑑」として推奨されるようになりました。
現在では、アタリの有無は印鑑の種類や個人の好みによって様々です。利便性を重視してアタリ付きを選ぶ人もいれば、縁起や慎重さを重視してアタリなしを選ぶ人もいます。また、最近では天然石などを埋め込んだ装飾的なアタリも登場しており、デザインの選択肢も増えています。