
印鑑の種類と選び方
印鑑は日本の文化やビジネスにおいて欠かせないアイテムです。個人のアイデンティティを表す印鑑は、種類、材質、書体によって異なるため、選び方にも注意が必要です。本記事では、印鑑の種類や材質、書体について詳しく解説、女性の方におすすめの印鑑選びのポイントもご紹介します。
目的別の印鑑の種類
印鑑には主に以下の3つの種類があります。
印鑑登録に使う「実印」
実印は、法的効力を持つ重要な印鑑で、市町村役場に登録されているものです。契約書、住宅の購入、車の登録など、重要な場面で使用されます。実印は一度登録されると、その印影が他の印鑑と重複してはならないため、特に慎重に選ぶ必要があります。
一般的にはフルネームで作成されますが、姓のみ、名のみでも実印登録可能です。女性の方など、将来的に姓が変わるなどを考慮して名のみで作成される方も多いです。
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銀行の届出印として使う「銀行印」
銀行印は、銀行口座の開設や金融取引に使用される印鑑です。実印と同様に重要な役割を果たしますが、実印ほど厳密な規制はありません。ただし、第三者による不正使用を防ぐため、個性的で複製しにくい印鑑を選ぶことが推奨されます。
フルネームや名のみで作成することも可能ですが、一般的には姓のみで作成することが多いです。
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書類などに押印する「認印」
認印は、日常生活や職場での書類に使用される印鑑です。実印や銀行印に比べて重要性は低いものの、頻繁に使用されるため、持ち運びやすさや手軽さを重視して選ぶと良いでしょう。
フルネーム、名のみでも作成可能ですが、通常は姓のみでの作成が一般的です。
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印鑑の材質
本象牙(ivory)
象牙には独特の繊細な模様があり、その重量感と相まって高級感があり、朱肉との馴染みもよく印影が鮮明で、印材としては他にない最高級品です。
加工・耐久性に優れ、長期間使用しても劣化しにくく、時間とともに光沢が生まれ、朱肉を吸い上げて変色していきます。この変色は縁起が良いとされる象牙特有の現象です。
また、象牙の品質にはランクがあり、象牙の外側から内側にいくほどキメが細かくなり希少性もあるため高価です。

チタン(titanium)
ロケットや航空機にも使われる、未来のハイテク素材として期待をされているチタン。鉄よりも高い硬度で、従来の印材をはるかに凌ぐ耐久性・耐摩耗性がある金属です。
傷やサビにも強く、金属アレルギーも起こしません。
重量感があるため、高級感も味わえ、軽い力でも綺麗な印影が出ます。
また、他の印材と違って水で丸洗いも可能なのでお手入れがしやすいです。
ただし、チタンは希少金属のレアメタルの一種で、硬度が高く加工に手間がかかることもあり、印鑑としての価格は比較的高価になります。

オランダ水牛(buffalo)
オーストラリアやアフリカ、南米から輸入される原材料の牛の角を利用した高級印材で、古来より「オランダ水牛」という名前で親しまれています。(歴史的背景からオランダ水牛とは言うものの、オランダ原産ではありません)
褐色で透明感と趣のある淡い色合いに「ふ」と呼ばれる縞模様が入っているのが特徴ですが、
その色合いには個体差があり、「ふ」の少ない乳白色のものや、耐久性のある中心部分の「芯持ち材」を使った印鑑は、大変貴重で高価です。
タンパク質が主成分のため、オランダ水牛の印鑑は、朱肉のなじみも良く、印影も鮮明で美しいです。

黒水牛(buffalo)
タイやベトナムなどの東南アジアを原産とした牛の角を利用した印材です。
象牙やオランダ水牛のように耐久性も高く印影も鮮明で美しいですが、価格は比較的手ごろでコストパフォーマンスに優れた印材です。
ただし、印材を溶かして黒色に着色して成型しなおしていない自然の「黒水牛」や
歪やひび割れに強く耐久性のある中心部分の「芯持ち材」を使った印鑑は、品質が高く貴重なため価格も高価になります。

薩摩本黄楊 つげ(boxwood)
ツゲ科ツゲ属の常緑低木の「柘」(つげ)は密度が高く硬質で耐久性があるがめ、古くから将棋の駒やそろばんの珠など様々な細工物の材料としても使われてきました。
柘(つげ)には色々な種類がありますが、主に鹿児島県の薩摩地方の薩摩本黄楊(薩摩本柘植)はそのなかでも特に高級とされ、植物性の印材として使われています。
天然植物系の印材の中では最も緻密で、硬度も粘りもある薩摩本黄楊の印鑑は、油や朱肉に強く、耐久性があり、変形や割れが生じにくいです。
印影も美しく、価格も手ごろなため、人気があります。ただし、水分や乾燥に弱いため、直射日光や湿気を避けるように保管することや使用後に朱肉を拭き取るなど、こまめな手入れをすることによって長くお使いいただけます。

ゴム印や浸透印
主に認印として利用できますが、ゴム印やスポンジからインクが滲み出るシヤチハタなどの浸透印は厳密には印鑑ではありませんので、認印はOKでもシヤチハタなどの浸透印は不可という書類などもあります。また、ゴム印や浸透印は変形や摩耗しやすいため実印や銀行印としては登録はできません。
印鑑の書体
印鑑の書体は、印影の美しさや読みやすさに影響します。
実印や銀行印には他の書体よりも外枠が欠けにくい印相体や篆書体、認印には視認性の高い楷書体や古印体がおすすめです。
下記に具体的に代表的な書体ごとに特徴をご紹介します。
印相体(いんそうたい)
印相体とは、主に実印や銀行印など重要な印鑑に使用される書体の一つで、篆書体をさらに装飾的に発展した書体です。
独特のデザインが施された「印相体」は、線が太く、複雑な彫りが特徴で、その文字がひと筆書きのように滑らかにつながっており、全体として模様のように見えるのが特徴です。
可読性が低いものの、複製や偽造を困難なため、実印としてとても人気の書体です。
さらに篆書体よりも印面外枠につながる形のため、他の書体よりも外枠が欠けにくい点も特徴です。
左右対称やバランスのとれた構図を重視して作られるため、見た目にも重厚感と格式を感じさせます。
古来中国の篆書を起源としながらも、日本国内で発展し、特に印章文化の中で「縁起の良い書体」「偽造されにくい書体」として定着してきました。
印影の中に吉相や風水的な要素を取り入れる場合もあり、印相学の考え方に基づき、運勢的にも良いと云われる配置の書体です。

篆書体(てんしょたい)
篆書体は、漢字の原型ともいえる古代の書体で、秦の始皇帝が中国全土で文字を統一する際に採用した「小篆(しょうてん)」を基にしています。
印鑑や書道の世界で重用されてきた伝統的な書体で、日本では特に「印鑑用の書体」としてよく知られています。
篆書体の文字は、線が均一で丸みを帯び、縦長の形状が多いのが特徴です。曲線や左右対称を意識した構造が多く、非常に美しく整った印象を与えます。
また、古典的で厳かな雰囲気を持ち、どっしりとした重厚感があります。
篆書体は、偽造防止の観点からも優れており、印鑑書体として高く評価されています。特に実印や銀行印など、公的な印鑑で使われることが多く、その格式の高さが信頼感につながります。
印相体のように極端にデザインを施すのではなく、元来の漢字の形に忠実なため、比較的判読もしやすいのも特徴です。

古印体(こいんたい)
古印体は、江戸時代の印判師によって手彫りされた古い印章文字の風合いを再現した、素朴で味わい深い印鑑用書体です。
篆書体を簡略化しながら、線の太さや形が崩れており、かすれやゆがみ、丸みを帯びた線などが特徴で、機械的な整いとは違う、人の手による揺らぎや温かみが魅力です。
判読性も比較的高い割に、線の太さが均一でないことから偽造されにくいため、主に認印に使われることが多く、可読性の高い書体がお好みの場合は、実印・銀行印用などの幅広い印鑑で使用されています。
一部の文字(糸や竹や山)などには少し個性的な形となる場合があります。

隷書体(れいしょたい)
隷書体は、紀元前の中国・前漢時代に生まれた書体で、篆書体よりも構造が簡略化された実用性の高い古典書体です。
官吏(役人)の文書作成に使用されたことから「隷(役人)の書」と呼ばれ、後の楷書や行書の基礎にもなった、漢字書体の発展において非常に重要な位置を占める書体です。
直線と曲線が交差する、落ち着いた風格と、横画が長く、縦画が短めで、横に広がるような独特のバランス感があります。
筆使いの特徴として、「波磔(はたく)」と呼ばれる横線の両端の跳ねや払いが見られ、これが隷書独特のリズムと装飾美を生み出しています。
隷書体は、現代では印鑑書体や表札、看板、書道作品、古典的なデザインに広く使われ、
古代の格式を残しながら可読性も比較的高いため、実印にはあまり選ばれませんが、
デザイン性と実用性のバランスが良く、銀行印や認印として人気の書体です。
一部の文字(糸や竹や山)などには少し個性的な形となる場合があります。

楷書体(かいしょたい)
現在日常的に目にする楷書体は、学校の教科書や公的な書類などにも用いられ、漢字の「お手本」として位置づけられる、標準的で読みやすい書体です。
その起源は三国時代〜魏晋南北朝時代(3~6世紀)にかけて発展した書風で、隷書体をもとにして整えられたものとされています。
クセが少なく、明瞭で誰が見ても読みやすい書体で実用性と安心感があり、セキュリティ性が求められる実印、銀行印などよりも、可読性の高さや見た目の美しさが重視される認印に適しています。

行書体(ぎょうしょたい)
行書体は、楷書体の整った形を少し崩した書体で、部分的に筆を流すことで柔らかさと動きがあります。
もともとは中国・東晋時代の王羲之(おうぎし)などの書家によって完成された書風で、実用書や書道作品に長く親しまれてきました。
楷書ほどかっちりしておらず、草書ほど崩れてもいない、「読みやすさ」と「美しさ」のバランスをとった中間的な書体で、
文字の一部がつながっていたり、筆順通りに滑らかに変化していたりと、手書き文字らしい柔軟さと躍動感が感じられます。
それでいて可読性は保たれており、程よく整っていて、フォーマルすぎず、くだけすぎない印象から、個人の認印、または趣味的な印鑑に選ばれることが多い書体です。
たとえば、手紙の落款(らっかん)やプレゼント用のスタンプなど、「形式よりも温かみや個性を大切にしたい」という場合におすすめの書体です。

印鑑のサイズ
ここで言う印鑑のサイズは印影(印面)のサイズで、実印、銀行印、認印に適したサイズと決まりがあります。持ち手部分のサイズは特に規定はありません。
基本的に規定内に収まっていれば好きなサイズで作成して問題ありませんが、
文字数が多い(フルネーム)や画数の多い文字は、印面サイズ小さいと線幅が細くなり欠けやすくなるため大きめサイズがおすすめです。
一般的には大きい方から実印、銀行印、認印の順番でサイズ違いで作成します。
実印
個人用の実印
個人の実印の印面サイズは各自治体によって8.0mm~25mmという規定があり、この範囲に収まるサイズでないと印鑑登録(実印登録)できません。
女性は13.5mm~15mm、男性は15mm~18mmが選ばれることが多いです。
女性が小さめのサイズが好まれるのは、男性よりも手のサイズが小さいというケースや、将来的に苗字を変更することを考慮して名前のみ刻印できるサイズという理由からです。
サイズ | おすすめの方 | |
---|---|---|
13.5mm | 女性の方 | 姓、名のみを刻印される方 |
15mm | 男女問わず | フルネームや画数の多い文字の方 |
16.5mm | 男女問わず | フルネームや画数の多い文字の方 |
18mm | 男性の方 | 画数の多い文字や視認性を重視する方 |
法人用の実印
法人用の実印として法務局に登録できる印影サイズは10mm~30mmです。丸型でも角型でも登録できますが、一般的には丸型が多いです。
法人用の実印も法人用認印である役職者印も会社名と役職名が刻印されますが、法務局に登録されている代表者の印が法人用実印となります。
サイズ | おすすめの方 |
---|---|
16.5mm | 小さめサイズ |
18mm | 銀行印よりも大きめで作成する場合、こちらがおすすめ |
銀行印
個人用の銀行印
個人用の銀行印の印面サイズは、大きすぎると書類の押印スペースに収まらない場合があるため、12mm~15mmが一般的です。 フルネームや名のみで作成することも可能ですが、姓のみで作成するのが一般的です。
サイズ | おすすめの方 | |
---|---|---|
12mm | 女性の方 | |
13.5mm | 男女問わず | |
15mm | 男性の方 | 画数の多い文字や視認性を重視する方 |
法人用の銀行印
法人用の銀行印は法人名と役職が刻印されるため、個人用銀行印よりもサイズは大きくなります。 特に規定があるわけではありませんが、銀行での登録時に印影が書類の押印スペースに納まる必要があるため、一般的には16.5mm~18mmで作成されます。
サイズ | おすすめの方 |
---|---|
16.5mm | 標準的なサイズ |
18mm | 大きめサイズ |
認印
個人用の認印
配達物の受取や家庭で日常使う認印のサイズは10~12mmの小さめサイズがおすすめです。
職場で使用する認印のサイズは12~13.5mmが適度に視認性があり、大きすぎずスペースが狭い書類に押印する際にも便利です。
重要度の高い書類や公式的な場面では、印影を目立たせるため、12mm~13.5mmの認印がおすすめです。
上下関係が厳しい職場や形式やマナーが重視される職場においては、上司よりも小さいサイズを選ぶのが無難です。役職がついている方は、部下に気を使わせないために大きめのサイズを選ぶといいでしょう。
サイズ | おすすめの方 |
---|---|
10.5mm | 家庭で日常的に使う場合や新入社員の方が職場で使う場合 |
12mm | 職場で使う場合 |
法人用の認印
法人用の認印には、見積書や契約書、請求書に押印する会社角印(社印)と稟議や決済の際に代表や役職者が使用する役職印の2種類があります。
角印
サイズ | おすすめの方 |
---|---|
21mm | 標準的なサイズ |
24mm | 会社名が11文字を超える場合 |
役職印
サイズ | おすすめの方 |
---|---|
16.5mm | 「支店長」や「部長」などの役職 |
18mm | 「代表取締役」のような重要な役職 |
安い印鑑はおすすめできない?
印鑑の価格は、材質やサイズによって変わってきますが、耐久性のあるおすすめの材質のものでは、だいたい下記のような相場となっています。
- 象牙・・・ 1.5~20万円
- チタン・・・ 2.5~6万円
- オランダ水牛・・・ 2.5~6万円
- 黒水牛・・・ 1.5~3.5万円
- 薩摩本黄楊(薩摩本柘)・・・ 0.5~2.5万円
一番安価な薩摩本黄楊ならサイズや品質によって数千円から購入できますが、一番高価な象牙では20万円を超えるものもあります。 印鑑は一生使う可能性もあるため、耐久性のある材質を選ぶのがおすすめですが、象牙などは希少価値によって高価になっている面もあります。
最近では100円ショップでも印鑑が購入できますが、安価な印鑑はプラスチック製で耐久性が低く、大量生産品なので、同じ印影が大量に世の中に存在します。
このような安価で唯一無二でない印鑑を「三文判」と言います。
主に安価な認印を手に入れたい方が購入されるようですが、
使用頻度の高い認印だからこそ、耐久性が高く人前でも見栄えの良い材質の印鑑を使った方が印象は良くなるでしょう。
ちなみに、シヤチハタのようなゴム印は耐久性のある高価なものでも実印登録はできませんが、なぜか大量生産された耐久性のないプラスチック製の安価な三文判でも実印登録ができることもあるようです。
大量生産の三文判を実印登録するような人はまずいないとは思いますが、役所は唯一無二の印鑑であるかは確認しようがないため、非推奨とはしているものの三文判でもゴム印でなければ実印登録ができてしまいます。
女性の方におすすめの印鑑
印鑑は機能性だけでなく、デザインや使い勝手も重要です。以下に、女性の方におすすめの印鑑選びのポイントを紹介します。
コンパクトなサイズ
手のサイズに馴染むよう、コンパクトで軽量な印鑑がおすすめです。持ち運びやすく、カバンやポーチなどに入れてもかさばらないサイズが理想的です。
デザイン性
近年では、カラー印鑑やデザイン印鑑など、ファッション性を重視した商品が増えています。お気に入りの色やデザインを選ぶことで、使用するたびに気分もいいでしょう。
材質選び
軽くて持ち運びしやすいプラスチック製や、エレガントな石材を使った印鑑が人気です。また、長く愛用できるよう耐久性にも注目して選ぶと良いでしょう。
セットで揃える
実印、銀行印、認印をセットで揃えることで、統一感のあるデザインを楽しめます。ケースに入れて保管することで、紛失防止にも役立ちます。